ゲンゴロウパラダイス
春が訪れ水ぬるむ今日この頃、また水生昆虫の季節がやってきた。
水生昆虫の本格飼育をはじめたのが3年前。しな子宅より60cm水槽を借りてゲンゴロウ3匹、ガムシ3匹、コガムシ3匹をひと夏飼育して秋に溜池に帰した。
さらなる収穫を信じ臨んだ翌年はガムシが2匹ほど捕獲されただけでなんとも寂しいしなちく水族館となった。その翌年(去年)はとうとう大型水槽を借りることもなく小型水槽でコガムシを飼育するにとどまった。
去年の収穫としてはコガムシの大量発生地が近所にあることを発見したことである。
初年度大いに盛り上がったしなちく水族館であったが年を追ってジリ貧になっていくのであったがしなちく氏の水生昆虫にかける情熱は変わることがなかった。
そんなしなちく氏が本格的水生昆虫シーズンを前にインターネットで水生昆虫情報を収集しているとたまたま見つけたホームページでゲンゴロウの生息している溜池の地域名が出ているホームページを見つけた。
ゲンゴロウは今や希少種でマニアによる乱獲が心配されるのでホームページ管理者はその辺のことを十分に注意していただきたい。地域名は最低でも都道府県レベルに抑えるべきで、市町村レベルにするとちょっと本腰を入れて調査するだけでその溜池を特定することができてしまうのだ。
わたくしはその不注意管理者のスキを突いてその地域の溜池を徹底調査することにしたのだ。ある公休日の早朝、わたしは車を走らせた。
地図にいくつかのマークをつけた。調査する溜池だ。カーナビと地図を頼りに車を進めていくと最初の池はあった。護岸はしていない池であったが悠々と鯉が泳いでいるだけでお目当てのゲンゴロウの姿はなかった。
最近肉食外来魚(ブラックバス、ブルーギル)による生態系の破壊が深刻化し新聞等を賑わしているが実は鯉もそんな生態系破壊の下手人(げしゅにん)の一人(一匹?)なのだ。
鯉は元来雑食性であるが、基本的に腹が減っていればなんでも食う。ミミズをエサにして釣れるのだから肉食でもあるのはお分かりいただけるだろう。そしてなんといっても体が大きい。だからでかいものでも食べてしまう。ゲンゴロウの幼虫など大きな鯉にとっては格好のエサになってしまうだろう。
ゲンゴロウの幼虫は肉食で生きた魚などを襲って食べる獰猛な生き物だ。終令(3令)幼虫になると10cm近い大きさにもなる。しかしそんな大きくて獰猛な幼虫も50cmを超えるような大鯉にとっては御馳走でしかない。今回の調査でも鯉が多数いる溜池ではどんなに環境がよくてもゲンゴロウの姿を見ることはできなかった。外来魚共々鯉のむやみな放流は慎んでいただきたいものだ。
2つ溜池を見てまわった。2つとも護岸がされておらず比較的よい環境が残っているようであったがゲンゴロウの姿はなかった。かわりに大きな鯉が悠々と泳いでいた。
3つ目の池に行こうとした際、道を間違えて違う道に入ってしまったのだが方向は同じだったのでそのまま車を進めた。いずれ目的地近くへ出るであろうと思ったのだ。道すがら溜池を探していると進行方向右手に程良い大きさの溜池があった。車を停め池を見渡すと1匹のゲンゴロウが呼吸のため浮上してくるのを発見。
にわかに活気づき、網を持って水際に降りた。しばらくするとまた1匹呼吸のため浮上してきた。すかさず網を入れてすくい上げた。
するとどうであろう、なんと5匹ものゲンゴロウが網に入ったのだ。過去3年で3匹しか捕獲できなかったゲンゴロウがいきなりひと網5匹である。この日はエサを持ってきていなかったのだが、エサを使えば大量捕獲も夢ではない状態だ。
その後、もう1カ所それほど高濃度ではないがゲンゴロウの生息を確認した池を見つけてその日の調査は終了した。
1週間後エサを持参して、そのゲン池へまたしても足を運んだ。そこで私は驚愕する。エサを沈めて約15分。エサを沈めた周辺では激しくゲンゴロウが呼吸のため浮上してくる。そ〜とエサを引き揚げ網ですくうと30匹近いゲンゴロウが網の中でうごめいていたのだった。
こんなに生息密度の高い溜池がまだ日本にあったのか。喜びとともにこの環境がいつまで残るのかという不安も胸をよぎった。
周辺が護岸されていない。田園地帯の最奥部にあり農薬の被害を受けづらい。産卵床となるオモダカなどの植物が水際に生い茂ってる。ブラックバスや鯉などの天敵がいない。これら条件がすべて揃ったこの池はいつまでこの条件を保つことができるのだろうか。
その翌週も調査に訪れた。この日ここゲンゴロウパラダイスにおいて2網で55匹ものゲンゴロウを捕獲した。3週連続の調査で見てまわった溜池が30カ所以上、そのうちゲンゴロウの生息が確認された池が6カ所。大変苦労したがこのように収穫もあった。
ちなみに一連の調査で捕獲されたゲンゴロウはすべて池に帰されている。今年の夏、しなちく水族館は休園が決定されたのだ。ちび子がうろついて邪魔なので水槽の設置を断念せざるおえなかったのである。
来年あたりは繁殖に影響のでないようオスのみ3匹ほど持って帰って夏の間だけ飼育したいものである。
それから2ヶ月近く経った7月のある日、ゲンゴロウパラダイスとその周辺のゲン生息池を訪れてみた。ゲンゴロウパラダイスは池の周りに草が生い茂り水際へ近寄るのが不可能な状態であったが、逆にそれが心ない乱獲者の侵入を拒んでいるようで安心した。周辺の田には水が入り交尾産卵の時期を終えた成虫たちはあちこちへ飛んで行ってしまったのだろうか、水面にはかつてのようなおびただしいゲンゴロウの姿を見ることはなかったが悲観するような状態ではなかった。
その他のゲン生息池においても同様であった。今までゲンゴロウ生息調査や採集を夏場に行っていたが実は夏場というのは採集等には向いていない時期だったようだ。
秋になり田の水が抜かれ再びゲン池にゲンゴロウたちが戻ってくるのを待ちたいものだ。今年生まれた新成虫も交えて春よりもたくさんの虫たちの姿を。