去年の秋くらいだっただろうか、背中に「できもの」ができてしまったのだ。大きさは小豆くらいで痛くもなく痒くもない。腫れることもなく別段なんの害もなさそうな感じであった。
そのうち消えるだろうと思いつつ月日は流れた。痛みとかがないので「できもの」の存在すら忘れていたのだが「できもの」は消えることなく春を迎えた。
生活に実害はないのだが、これから夏を迎えるにあたり海水浴なんかで見栄えが良くないので医者に行くことにした。
病院はこの辺でも定評のある大病院「厚生連篠ノ井中央病院」。しかしいつ行っても病院っていうのは憂鬱である。受付の指示どおり外科の外来へ行く。皮膚科ではなく外科らしいのだ。待たされること約2時間、ようやく順番が回ってきた。
先生に背中を見せる。どんなものか伺う・・・。
『粉瘤(ふんりゅう)』というもので、早い話がニキビの親戚らしい。通常汗などと一緒に毛穴から出る体の老廃棄物が、出口を失って体の中にたまってしまうもので、普通は自然に無くなってしまうらしい。
バイ菌などが入らなければ害はないのでほっといてもいいよ、とのことだったが手術して取ってもらうことにした。大きさも大豆くらいに成長していたし。
しかし手術である。手術。あの赤い「手術中」の赤ランプが消える。執刀医と看護婦が早足で出てくる。妻が駆け寄る。小さく首を横に振る執刀医。泣き崩れる妻。手術室には白布を顔に掛けた患者が・・・・の手術なのだ。
そうと決まるとすぐに別室に連れられ翌週の手術の準備となった。簡単に「取ってください」などと言ってしまったが大がかりなことになってしまったのだ。
まず血を抜かれ検査された。エイズや肝炎などの感染症の検査も同時に受けた。そして手術の段取りの説明。「こんな部屋でこんな格好をして手術します」「麻酔には副作用の危険がありますが当病院ではこれら危機にも対処できる体制で手術に臨みます」・・・等々何だか本格的なのだ。期日はちょうど一週間後の6月14日、本人家族の署名欄付き手術同意書を手に家路についたのだ。
月日はあっという間に流れ6月14日。ちょうどサッカーの日本VSチュニジア戦の日であった。にわかサッカーファンの私も見たくてしょうがなかったのだが、キックオフは15時半、手術は15時頃開始という最悪のバッティングなのだ。
とりあえず14時頃外科の外来に行く。手術の先客がいるのでその人が終わってからだ。順番が来たら手術室より受付の看護婦さんへ電話が来る手はずになっているらしい。血圧と熱を計る。緊張と興奮のためか熱が高めだ、37.1度もある。でもまあよしということでそのまま待合室で待つ。午後は外来の診察はないので、がらんとした待合室で一人待っていると恐怖が増幅される。
15時ちょっとくらい前だろうかプルプルプルと受付の電話が鳴る。「きたっ」。看護婦さんが電話を受ける。ほどなく看護婦さんに連れられ手術室に行くことになった。「本館の2階になりますね」、「はあ・・(力なく)」。
「ではまたこちらでお待ちください」と手術室の手前にある待合室に通された。待合室には患者の家族であろう人が7人ほどいて手術が終わるのを待っているようだ。
この病院の手術室の構造はこうだ。手術室入り口の脇に小さな待合室がある。今いるところだ。しかし入り口の上には例の「手術中」の赤ランプは無いのだ。入り口を入ると大きな部屋があって入り口の脇に患者の控え室がある。そこで浴衣風の手術着に着替え、頭キャップをし手術の準備をするのだ。大部屋ではいかにも外科医って感じの人と看護婦が準備やらなにやら働いている。大部屋の奥には実際に執刀する手術室が3〜4部屋並んでいて、それぞれの部屋はバイ菌等の進入を防ぐためであろう大きな鉄の自動ドアで仕切られていて、それぞれのドアの上に例の赤ランプがついているのだ。同時に3〜4人の手術ができそうな設備だ。
控え室で着替えていると、手術室(実際オペするところ)から一人の患者が出てきた。よくあるタイヤの付いたベッドみたいなやつに横たわって、点滴の袋をぶら下げて出てきたのだ。恐怖倍増だ。
そしていよいよ順番が回ってきた。鉄の扉の向こう、奥の部屋はテレビでよく見る手術室と同じで電球の10個付いた丸形のライトが真上にあって、「いかにも」って感じだ。部屋にはオルゴール風の音楽が流れている。患者を落ち着かせる為なのだろうか。中央の手術台に背中を出してうつぶせで寝る。血圧計を付ける。
恐怖におびえていると看護婦さんが「こうゆうトコ初めて?」と聞いてくる。まるで『ソー○ランド』みたいだ。「初めてなんで優しくキモチよくお願いします」なんてギャグをかます余裕など無いのは言うまでもない。だいたいサービスをしてくれるのは看護婦でなく医者なのだ。少しすると手術ルックに身を包んだ医者がふたり入ってきた。先週診てくれた先生が執刀するようだ。その先生が「すこし小さくなったんじゃない(患部が)?」と聞いてくる。なんだか物足りなさそうだ。
いよいよ始まる。うつぶせなので背中で何が行われているか分からないのだが看護婦さんが逐次教えてくれるのだ。「麻酔打ちますね」「切開しますね」などなど麻酔が効いているので痛くはないが、背開きにされる感覚が分かるのだ。ウナギの気持ちが少し分かったような気がする。切開が始まってから約10分後、看護婦さんの「終わりましたよ縫合しますね」のありがたいお知らせがあった。縫合の時も針が背中を通っていく感覚がわかって非常に不安なのであったが無事に終了したのであった。
手術後摘出された組織を見せてもらった。すでにビンに入れられホルマリン漬けにされている。真っ白で小豆くらいの大きさでまん丸だきれいに取れたものだ。この憎き白丸が私をここまで苦しめたのだ。
手術室を出るとき深々と頭を下げる。「ありがとう先生。歴史に残る名医です」・・そんな心境であった。こういうときは心の底から感謝するものなのだ。
一週間後抜糸となった。10年ほど前足の爪をはがしたことがあって、その際足を縫ってもらったとこを抜糸したときはけっこう痛かった記憶があるので不安ではあった。私は痛いのにはめっぽう弱いのだ。
しかし不安は杞憂に終わりすんなりと糸は抜けてしまったのだ。ほどきやすいように蝶結びにしておいたようだ(ウソ)。
ここの病院は料金明細がかなり細かく出る。6月14日の手術の時の明細には手術費12000円・・と記載されてあった。その他にも薬の処方代などなどかかって、本人負担は5150円(社保)だったんだけど、手術費12000円って安いよねえ。手術時間は確かに短かったけど、執刀医、看護婦をはじめいろんな人の手を煩わせたにもかかわらず12000円。ちょうどこの少し前に車の塗装が3ミリ角ほど剥がれて修理に出したんだけど、その修理費が10000円。
3ミリだよ、3ミリ!!。こっちは3センチくらい修理してもらってんのに12000円。車の方が高いのかい?。まあ安い方が助かるんですけどね。手術費がいくらくらい掛かるのか見当がつかなかったんで、実は10万円持参で行ったんですよ。3ミリ1万円でしたからね(車だけど)。そしたら5150円。
助かったけど拍子抜けしましたね。治療費はこれでいいから車の修理代少し安くしろよな。デフレの時代なんだから。