『楽しいバカンス?』
今年の冬は暖かい冬であった。例年だと最低気温がマイナス10度以下になる日や、最高気温がプラスにならない「真冬日」などが一冬に何日かあるものなのだが、そういった日が1日もなく穏やかに冬は終わろうとしていた。
そんな「厳寒」のないまま冬が終わろうとしていた2月の中旬頃、にわかに気分は南の島に向かったのだ。
毎年そうなのだが冬の寒さが一段落して風が少し暖かくなりはじめると急に春が恋しくなるのだ。それまでスノーボード方面にいっていた気持ちが春方面に方向転換する季節なのだ。
しかし、かといって急に南の島に出かけるわけにはいかない。これでもサラリーマンゆえに有給休暇等いろいろ準備や手続きもある。気持ち的には3月小笠原というのがベストだったのだが3月の小笠原というのは繁忙期で各種予約が大変なときなのだ。しかも3月といえば卒業式。
卒業式??関係ないであろうと思われる御仁も多いであろうがそうではないのだ。
実はわたくしこの3月末をもって17年間お世話になったT電鉄を退職(卒業)してしなの鉄道社員へと移籍することが決まっており、3月は転籍の手続き等もあってそれなりに忙しく南の島でバカンスどころではないのだった。
そんなわけだったので南の島計画は3月小笠原から4月沖縄方面へと流れていった。「お客さ〜ん、お食事の準備できましたよ〜」などという規則正しい生活を迫られる宿ではなく、海辺のコテージかなにかで時間を気にすることなく、のんびりと過ごしたいものだと考えた。
しかし安定した大企業 T電鉄の衣をまとったわたくしは、その衣を脱ぐといきなり世間の寒風に吹きっさらされるのであった。
経営難に苦しむ中小しなの鉄道に転籍したわたくしは当初予定以上に年収減になりそうな気配になってきたのだ。もはや今までのような浪費は許されないのだ。しかし南の島でバカンスはしたい。いろいろな角度で旅行経費削減を考えた結果、「海辺のコテージ(2名1泊20000円)」は「海辺でキャンプ(2名1泊300円)」へと格下げになった。
幸い我が家にはテントや寝袋もあるのだ。そこのキャンプ場は沖縄本島から船で渡った島にあり、8年前に一人で行って4泊ほどしたことがあって、なかなかいいロケーションのところなのだ。入浴関係では、あいにく水シャワーしかないのでしな子はどう思うか心配したが、彼女はむかし東南アジアの辺鄙(へんぴ)なところでホームステイなどもしたことがあるのでその程度は大丈夫だという頼もしい返事が返ってきて安心した。
往復の旅費についても航空機の「早割」等を利用することで飛行機代往復22000円という超格安で手に入れることができた。やればできるものである。
ところがまたひとつ厄介な問題が発生した。「火」の問題である。キャンプをするからには火が必要である。基本的に自炊はしない。食事は海辺の道を約30分ほど歩いたところにある集落にある食堂ですればいいと思っている。日に1〜2回その海辺の道を行き来するのはとても気持ちが良く、南の島に来ていることを実感する瞬間なのだ。しかしお茶やコーヒーを飲んだりラーメンを食べたりレトルトカレーを食べたりとお湯を沸かす必要はある。それには愛用している「イワタニプリムス」のコンパクトなガスコンロを使用すればいいのだが、そのコンロに使用するガスカートリッジをどうやって持っていくか?困ってしまった。飛行機には持ち込めないシロモノなのだ。
前回この島に来たときは預かり手荷物の中にどさくさに忍ばせておいて沖縄まで運んでしまったが、例のテロ事件以来荷物等のチェックは厳しいらしく、特に沖縄便は米軍施設とのからみもあって厳しいらしいのだ。
見つかれば没収されてしまう。それくらいで済めばいいが「かなり危険」などと判断されたら搭乗そのものが危なくなってくる。・・逮捕・・・死刑・・・不安が脳裏をよぎる。行きがけの空港でのゴタゴタは避けたい(帰りもそうだが)。せっかくのバカンスなのだから。
そこで現地調達を考えた。島は無理にしても那覇は都会である。少なくとも戸倉町よりは。だがインターネットでいろいろ調べたのだが、意外と扱っている店がないのだ。空港から港へ行く途中でちょっと立ち寄って購入・・・などと簡単にはいかないようなのだ。
飛行機から船への乗り継ぎは3時間半しかないのでガス調達にあまり時間をかけてはいられない。港周辺の釣具屋やスポーツ店に電話して聞いてみるが扱っていない。
茶碗をひっくり返したような形をしたイワタニプリムスの黄色いガスカートリッジ・・といえばその世界ではかなりメジャーな製品なのだが沖縄では今ひとつ知名度が低いのだ。
方針を少し変更して家庭用ガスコンロで使う縦型のカートリッジを使用するタイプのアウトドア用コンロを持っていけばカートリッジの入手が容易なのではないかと考えた。縦型ガスカートリッジは長野だったらコンビニでも売っている。沖縄の人は鍋などをそれほど食べることはないだろうから(たぶん)、コンビニで売っているかは判らないけれど、ちょとしたスーパーや金物屋にも売っているはずだ。
だが、このタイプのキャンプ用ガスコンロというのはあまり種類がないうえにまだ季節がキャンプの時期ではないので大型のスポーツ店でも入手は困難と思われた。ガスの入手は容易でもコンロの入手は困難なのだ。それでなくても長野ではちょっと変わったモノが手に入りにくいのだ。
しかしそんな心配をよそにその製品はあっさりと入手することができた。お値段3900円。この手のモノとしてはかなり安い方だ。
これでガスの方は何とかなりそうなメドが立ったのだが、またまた問題が発生した。海開きは4月1日だとばかり思っていたのだが、その島の海開きは4月20日だったのだ。見事に日程がダブっている。そして海開きイベントとして東京あたりのスポーツクラブの主催で島外の人を集めてキャンプ場前の浜で遠泳大会が催され、それと合わせてその他イベントをやるらしいのだ。
海開きで島民が騒ぐのは構わないが島外からあまり人が来られると座席数の少ない高速船の予約なども含めて、静かでのんびりキャンプをしたいわたくしとしては大いに迷惑なのだ。
大いに焦った私はあわてて別の島を探した。ゆっくりのんびりキャンプをしに行くのに本土あたりから大勢の人が来られたんじゃ堪らない。できれば沖縄行きそのものを延期したかったのだが、早割航空券は変更できないのだ。
しかしいろいろ考え、調べ上げたうえでこの島に決定したわけであって、そう簡単に代替え地が見つかるわけもなかった。
いろいろ調べていくうちに分かったのだが海開きイベントはそれほどの大規模ではなく、島中が大騒ぎになるようなこともなさそうなのだ。結局代替え地は見つからず、当初の予定通りキャンプ紀行は催行されることになった。
後日高速船の予約も余裕でとれて、何とかなりそうな気配が濃厚になってきたのだ。
一応出発までの準備は整った。後は運を天に任せて出発の日を待つばかりである。はたしてしなちく、しな子夫妻は楽しい沖縄バカンスキャンプを満喫することができるのであろうか? (つづく)