2004年10月も終わりの31日のことであった。その日は朝11時くらいからの勤務だったのだが、ちょうどお昼頃坂城駅から上田方面に向かって上り列車を運転していたとき線路内に鳥の死体が・・・
 「もしかしたらキジか鴨かもしれない・・」とも思ったのだが、その時は確認することができずにそのまま通過。折り返しの下り列車を運転中再度現場付近を通りかかったので確認しようと思っていたら、なんと下りの線路内にキジの死体を発見、「おおこれは・・・」と興奮しつつすぐに先程の上り現場付近を通過するとなんとなんと先程の上り線の鳥の死体もキジではないか。わずか数百メートルの距離をおいてキジの死体が2つ。
 野生鳥類補食愛好家のしなちく氏としては放っておけない状況となっていた。しかも現場は地元戸倉駅から数キロの地点だ。
 しかしそこでひとつ問題が持ち上がった。鮮度の問題だ。氏はその日の前2日間勤務はお休みだったのだ。
死んでいたキジは最悪3日前ということも考えられた。いくら涼しくなった10月末とはいえ3日間野ざらしになった鳥の死体を食べる度胸は持ち合わせてはいなかった。
 運輸区へ戻ると早速聞き込み調査を開始した。とは言っても40人近くいる運転士ひとりひとり聞いていくのも大変な作業である。しかも必ずしも自分がキジをはねたと認識しているとは限らない。鳥などはぶつかってきても「あっ鳥がぶつかったな」くらいにしか思わないのが普通である。
 ところがである、幸運は続いた。2羽とも殺人(殺鳥)犯がすぐに判明したのだ。私が休憩で運輸区に戻ったときにいた運転士はわずか2〜3人。その中に殺鳥犯がすべていたのは奇跡に等しい。しかも2羽とも今朝轢かれたということが判明した。
 最初に発見した上り線のキジは某S運転士(30)が622M列車で現場7時52分頃に衝突、S運転士の談話によるといきなり線路上に飛び出し、そのまま巻き込まれたという。巻き込んだあと「ガタゴト」と足元で音がしたので、鳥は台車内でかなりかき回されたものと思われ死体の損傷も大きいと推測された。
 一方下り線のキジは営業列車ではなく見習い運転士が国家試験を受けるために練習用に運転している訓練列車に轢かれたことが内勤で教習担当のN氏(38)の報告によって判明した。
 N氏の談話によると10時頃訓練列車が坂城駅に向かい進行していたところ坂城駅場内信号機喚呼位置票付近においてキジが飛行しながら電車の直前を横断し、そのまま衝突したという。キジは電車前面にぶつかりはね飛ばされただけで全身打撲により即死墜落。列車はその上を通過しているため死体の損傷もほとんどないであろうというのがN氏の意見であった。
 これら2件の報告をもとにしなちく氏は上り線のキジはあきらめ下り線のキジ回収を今宵勤務終了後信濃千曲川通信社総力を上げて行うことを決定した。
 夜20時30分、勤務終了帰宅後、氏は夜食も摂らずにしなちく1号を駆って坂城方面へと向かった。今回の現場は4〜5年ほど昔にやはり自分で轢いたキジを拾いに来たことのある場所なのだ。
 しかし前回と違い今回は夜。線路脇にある砂利の集積場にこっそりと入り込み、その敷地内から線路内に潜り込むのだ。勝手に夜の砂利工場の敷地内に入り込み、更に線路に入り込む。警察が来たら即本署直行だろう。人目を避け暗闇の線路にあがると足元も当然真っ暗でどこにキジが落ちているのか全然分からない。
 とりあえず懐中電灯で前方を照らしながら昼間確認したあたりへ進んでいると、「ぐにゃっ」という何か踏んづけた感触が・・・。足元を照らすと、あったあったありました
 急いで回収し線路から出て間もなくすると電車が通過した。危うく轢かれるところであった。この暗闇の中で簡単にキジが回収されたのもかなり幸運であった。今回のキジ回収は幸運続きだ。
 家に戻るとお湯を沸かしキジに振りかける。熱湯をかけると羽根が抜けやすくなるのだ。そして熱湯をかけたキジを近所の用水路に架かった橋の上にもっていき羽根をむしった。むしった羽根はそのまま川に流す。
 30分ほどかけて丸裸にされたキジは今度は台所に運ばれ解体された。慎重にモモ、手羽がはずされ、ムネ肉も丁寧に本体から剥がされた。これらの肉は一旦冷蔵庫に入れられ翌日以降の食卓を飾ることとなった。今夜のおかずはカレーライスだ。
 翌日夜、手羽ともも肉が串に刺され焼き鳥となった。味付けは肉本来の味がよくわかるように「塩」。そしてムネ肉を刻んで親子丼用卵とじが作られた。
 焼き鳥は普段食べるジューシーな感じのものと違いあまり油っけが無く締まった感じだ。噛めば噛むほど味の出るスルメのような深い味わいであった。親子丼もそうであったが、運動不足で肥育されたブロイラーと違いあまり油っけがなくて身が締まっているのがキジの特徴だ。そしてウドンや鍋にするといい出し汁が出る。すなわち味が濃いのだ。北から渡る水鳥ゆえに脂肪分の多い鴨ともまた違う味わいである。
 キジ食2日目の昼はガラを茹でて出し汁を大量に作りキジウドンが制作された。もちろんキジ肉入りである。普段キジが回収されるとガラも肉もすべて大鍋に入れられ大量のキジウドンが作られて職場で振る舞われた。しかし今回は回収されたのが夜遅かったなどの理由によりキジ肉はすべてしなちく家で処分することとした。よっていろいろな料理になってキジさんが登場するのであるが、キジウドンはやはり私が初めてキジを食した味であり、私にとってのキジ食の原点でもあるだけにより味わい深いものとなった。
 2日目の夜は先程の出し汁とキジモモ&ムネ肉を使ったキジ鍋である。これもまた肉本来の味が分かるように水炊きで白菜などと一緒に食べられた。
 3日目の昼は昨日のガラ出汁の残りで再度キジウドンが制作された。しかしもうキジ肉に残りはなくスーパーで購入した鶏肉が代わりに入れられた。
 そして最後3日目の夜は昨夜の水炊きの残り汁で作られた雑炊である。キジのガラ出汁と茹でられたキジ肉から出た出汁が濃厚な味わいとなって3日間続いたキジパーティを締めるにふさわしい味わいとなった。
 このように幸運に次ぐ幸運により手に入れることができた今回のキジさんは余すとこなく、まさに骨までしゃぶり尽くされて成仏することとなったのである。次の年の干支である「酉年」を迎えるにふさわしい出来事だったのでした。